選択的会社員

うつ、休職を経たアラサーOLが会社員生活の中で感じるひそやかな幸せ

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先人に思いを馳せる

図書館で本を借りるとき、たまに同じ本が数冊置かれている場合がある。そんなとき、私は年季が入った方を借りる。真新しいものを自分が傷つけてしまったら、きっと申し訳ない気持ちになってしまうから。それに本というものは、年季が入っても価値が損なわれるどころか、より重要な価値を帯びてくるような気がする。文庫本だと尚更だ。うすぼけた表紙、黄ばんだページをめくるのは、勝手に先人たちに思いを馳せられるので、悪くないと思っている。あと、電車なんかでこういった古い文庫本をめくっている人を見ると、知的な感じがしてよい(ものすごい思い込みだという自覚はある)。

寺田寅彦随筆集 第一巻』を借りた。その本は、一般開架ではなく書庫にしまってあった。書庫から出されたものを受け取ると、今までに借りたどの本よりも年季が入っているのがすぐに分かった。巻末を見ると、まだ貸出の手続きが完全に人の手で行われていた跡があった。昭和63年6月23日。この小さな本は私よりも少し先輩であった。初版は昭和22年。大大大先輩であった。おみそれいたしました。

貸出票

貸出票

 まだ半分も読んでいないが、我が家の小さな本棚にお迎えしたいと早くも思っている。一つ一つのことを深く感じとるやわらかな感性、それを表すことばの豊富さ。読んでいると気持ちが穏やかになる。

以下は、特に気に入った一節たち。今日は友人に会いに電車に乗るので、この本を読んで知的な感じを演出していこうと思う。

睡蓮もまだつめたい泥の底に真夏の雲の影を待っている。

台所ではおりおりトン、コトンと魚の骨でも打つらしい単調な響きが静かな家じゅうにひびいて、それがまた一種の眠けをさそう。