選択的会社員

うつ、休職を経たアラサーOLが会社員生活の中で感じるひそやかな幸せ

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御婦人の謎

好みの風貌やファッション、素敵な小物を身にまとっている人を見ると、ついちらちらと見てしまう。あまりよろしくないとは思っているのだけれど、止められない。できるだけ情報を収集して、真似したいと思ってしまうから。

この間、一人の御婦人に目を奪われた。紫陽花のような薄い青紫色の着物に、これまた紫陽花のような薄いピンクの羽織を着ていらっしゃった。足元はソールに黒と金のラインが入った下駄。ヘアスタイルもキマっていて、襟足を刈り上げたシャープな前下がりボブ。なんて洗練されたスタイルなんだろう。外見だけでなく、所作も美しかった。電車の椅子に座りながらもしゃんとした背筋と、綺麗に揃ったつま先。こんな気品のある座り方、私にできるだろうか。

しばし見つめていると、御婦人が席を立った。どうやら私と同じ駅で降りるようだ。なんとなく嬉しく思ったのも束の間、御婦人は私や周りの人を押し退けるように、我先にと降りていった。せっかく素敵な装いなのだから、装いに恥じぬ振る舞いをしてほしいものだ。

もやもやしながら乗り換え先のホームまで歩いていると、偶然にも御婦人の姿が見えた。御婦人は、ものすごい速さでお手洗いに突入していった。突入というか、お手洗いの方がご婦人を吸い込んだように錯覚した。なーんだ、そういうことだったのね。それは我先にとなるわ、と納得してしまったのだった。今思うと、しゃんとした背筋と綺麗に揃ったつま先も、お手洗いを我慢していた故のものかもしれない。そう思うと少し、いや大分笑えてきた。お手洗いの件はなくても御婦人は本当に所作の美しい人かもしれないが、謎は謎のままだ。

ただ、御婦人の着物の着こなしはとても素敵だった。勢い余って5月から着付け教室に通うことにした。お寺巡りをしてみたりお寺でヨガをしてみたりと、私の日本伝統への興味は尽きることがない。まずは形から入ってみて、その次はお茶を習う予定だ。最終的には禅の精神を身につけて、柳のようにしなやかな考え方、生き方をしたいと思うばかりである。柳の枝に雪折れなし。英語ではA reed before the wind lives on, while mighty oaks do fall.(大風に葦は生き延び、樫の大木が倒れる)と言うらしい。